建物の工事現場でよく見かける、木やパネルで囲われた不思議な枠。実はそれが「型枠(かたわく)」と呼ばれるもので、コンクリートを流し込む“型”の役割を担っています。完成後には見えなくなる工程ですが、建物の強度や形状に大きく影響する非常に重要な作業です。では、その型枠工事はどんな順序で進められているのでしょうか。
現場では、設計図通りに建物を作るために、まず位置決めを行い、型枠を一つひとつ丁寧に組み立てていきます。その後、コンクリートを流し込み、固まったら型を外す——この一連の作業が「型枠工事の流れ」です。言葉にすると単純に見えるかもしれませんが、各工程には専門技術と高い精度が求められ、職人の腕が試される場面が多くあります。
この記事では、現場のリアルな声や作業の裏側にも触れながら、「型枠工事ってなんとなく難しそう」と感じていた方でもわかるように、流れを順を追って紹介していきます。普段は見えない“建物の骨組みの裏側”を、一緒にのぞいてみましょう。
ステップ1:施工図・墨出しで“型”の位置を決める
型枠工事は、いきなり木材を組み始めるわけではありません。最初のステップは「施工図」の確認と「墨出し(すみだし)」という作業です。施工図とは、建物の構造を示した詳細な図面のこと。この図面に基づいて、実際の現場でどこに型枠を設置するかを正確に決めていきます。
「墨出し」とは、その図面をもとにして、コンクリートを打つ範囲や柱・壁の位置を床に実際に描く作業のことです。たとえるなら、巨大な建築物の“下書き”を現場に描いていくようなもの。ここでズレがあると、全体の構造に影響が出るため、慎重かつ正確な作業が求められます。
また、墨出しは一度で終わるわけではありません。気温や湿度によって床が膨張したり、地盤の状態によって誤差が生じたりするため、何度も確認と修正を繰り返すのが現場の実態です。経験豊富な職人ほど、この段階で“先を読む目”を働かせます。たとえば後工程で重なる部分がないか、設置後の作業に支障が出ないかを見越して調整を行うのです。
このように、型枠工事の流れは、目に見える「作業」よりも、見えない「準備」が非常に重要な鍵を握っています。正確な墨出しがあってこそ、次の工程である型枠の組み立てがスムーズに進むのです。
ステップ2:型枠の組み立て|職人の腕が光る工程
墨出しによって建物の“下書き”が完了したら、いよいよ型枠の組み立て作業に入ります。ここからは、職人の技術が直接カタチとなって表れる、まさに腕の見せどころ。型枠大工と呼ばれる専門職人たちが、図面通りの寸法で木材やパネルを組み上げていきます。
型枠に使われるのは、コンパネと呼ばれる合板や鋼製パネルなど。これらを柱・壁・梁(はり)など、建物の構造に合わせて正確に配置し、鉄製の金具やサポート材でしっかりと固定していきます。ほんのわずかなズレでも、コンクリート打設時にひび割れや欠損の原因となるため、ミリ単位の精度が求められます。
さらに、現場では常に時間との戦いがあり、スピードも重要視されます。ただし、速さを優先して精度を落とすことは許されません。そのバランスを保ちながら作業を進められるかどうかが、ベテランと若手の分かれ目でもあります。現場では「誰が組んだ型枠か」で仕上がりの質が分かると言われるほど、腕の差が如実に出る工程です。
また、型枠の組み方ひとつで、作業のしやすさや後の脱型(取り外し)のスムーズさにも差が出ます。だからこそ、ただ組むだけでなく、次の工程や全体の段取りを見越して工夫できる職人は重宝されます。
組み上がった型枠は、建物の“見えない設計図”そのもの。そこには、図面にない職人たちの判断や工夫が詰まっているのです。
ステップ3:コンクリート打設|“形”になる一発勝負の作業
型枠がすべて組み上がったら、いよいよコンクリートの打設(だせつ)作業に入ります。この工程は、まさに“建物の形”が一気に現れる瞬間。現場の緊張感がもっとも高まる場面のひとつです。
コンクリートは工場で練り上げられたものがミキサー車で運ばれてきて、ポンプ車を使って型枠内に流し込まれます。流動性が高いうちに一気に作業を進めなければならないため、打設中は複数の職人が同時に動き、コンクリートの流れや充填具合を目と感覚で確認しながら作業します。
ここで重要なのが、「打ち込み方」と「締固め」。コンクリートは見た目以上にデリケートで、しっかり詰まっていないと内部に空洞ができてしまい、後の強度に大きく影響を及ぼします。そのため、バイブレーターと呼ばれる機械を使って、型枠の中で気泡を抜きながら均一に馴染ませていく作業が欠かせません。
また、季節や気温によっても作業の進め方は変わります。夏場はコンクリートの乾きが早すぎてクラック(ひび)が入りやすく、冬場は逆に凍結のリスクがあるため、現場ごとに最適なタイミングと方法を見極める必要があります。つまり、同じ作業でも“その日その現場だけの正解”を探しながら進めるのが打設作業なのです。
コンクリートが型枠の中で無事に納まり、全体が固まり始めたとき、初めて「建物が立ち上がった」という実感が現場に広がります。図面や下準備では見えなかった“かたち”が、ここで初めて目に見える存在になる——それがこの工程の醍醐味です。
ステップ4:脱型と仕上げ|現場の評価が決まる瞬間
コンクリートが十分に硬化したら、いよいよ「脱型(だったい)」の工程へと進みます。脱型とは、組み上げた型枠を慎重に取り外す作業のこと。コンクリートに必要な強度が出るまでは、型枠でしっかりと支えておく必要があり、硬化不十分のまま外してしまうと、構造に重大な欠陥を生むおそれがあります。
一般的には、コンクリートの種類や気温、部位によって脱型のタイミングが変わるため、現場では強度試験や天候の影響を見極めながら判断します。そして、型枠を外した瞬間に、その精度や仕上がりが一目で分かる。表面がムラなく滑らかに仕上がっていれば、「良い仕事をした」と職人同士でも一目置かれるものです。
ただし、脱型は単なる取り外しではなく、傷つけず、崩さず、効率的に作業するためのノウハウが問われる工程でもあります。解体の順番や支保工(しほこう/型枠を支える補助構造)の扱い方を間違えると、コンクリートに亀裂が入ったり、現場の安全性が損なわれたりするリスクもあるのです。
脱型後には、「不具合がないか」「修正が必要な箇所はないか」を一つひとつ丁寧にチェックします。万が一、表面にジャンカ(コンクリートの骨材が露出した状態)や欠けがあれば、補修作業も必要です。この段階まで気を抜かず、細部まで丁寧に仕上げてこそ、初めて“建物の基礎”として合格といえるでしょう。
そしてこの仕上がりは、元請けや監督者だけでなく、次の職種へ引き継がれる際の評価にも直結します。「この型枠屋に頼めば間違いない」と思われるかどうかが、今後の仕事の継続にもつながるのです。
型枠工事は、表舞台に立つことは少ないものの、確かな品質が信頼となって現場を支える仕事です。
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型枠工事の流れを知れば、建築の見方が変わる
型枠工事は、建物が完成すれば見えなくなる部分ですが、その存在なしにはコンクリートの構造物は成り立ちません。一つひとつの工程には、それぞれに職人の判断と経験が詰まっており、ただの「作業」ではなく「仕事」としての重みがあります。
流れを知ることで、現場で行われている型枠工事が、建築の土台を築く重要なプロセスであることが見えてくるはずです。墨出しの正確さ、型枠の精度、打設時の判断力、脱型後の仕上げ――そのすべてがつながって、建物の品質と安全を支えています。
もし、街中で工事中の現場を見かけたら、ぜひその型枠にも目を向けてみてください。目に見えない部分にこそ、確かな技術と誇りが宿っていることに気づけるかもしれません。
型枠工事に関してのご質問や協力依頼などがあれば、お気軽にご相談ください。